ごきげんよう。
英国刺繍作家・英国王立刺繍学校(RSN)講師の二村エミです。
秋の空気が澄んできましたね。
仕事の時間がいっそう心地よく感じられる季節、いかがお過ごしでしょうか。
今日は、英国刺繍の中でもとくに人気の高い「ジャコビアン刺繍」について、
その歴史やデザインの背景を少しひもといてみたいと思います。
目次
ジャコビアン刺繍とは?──デザインのルーツと異国の香り
ジャコビアン刺繍(Jacobean Embroidery)は、イギリスの伝統刺繍を代表する技法のひとつです。
リネン地にアップルトン社のクルウェルウール(crewel wool)というウール糸を使って刺していきます。

カルチャースクールの課題作品とクルウェルウール
その独特の色彩やモチーフには、17世紀初頭のスチュアート朝(Jacobean Era)の時代背景が映し出されています。
このころイギリスは東インド会社を通じてインドとの交易を盛んに行い、インドから届いた更紗(サラサ)布のデザインがヨーロッパの装飾芸術に大きな影響を与えました。
インド更紗の影響を受けたデザイン

伝統的なデザインのジャコビアン刺繍:制作・二村エミ
当時、熱帯の花や果実、蔓植物、南国の動物たちがモチーフとして大流行。イギリスの刺繍デザインにもそのエキゾチックな要素が取り入れられました。
ジャコビアン刺繍の中に見られる、想像上の花や絡み合うツタ、ユニークな鳥たちは、まさにインド更紗と英国の感性が融合した世界観。落ち着いた色合いの中にどこか異国の香りが漂うのが特徴です。
ちなみに、今も人気のリバティプリントの中にも、よく見るとインド更紗のようなボタニカル模様が潜んでいます。時を超えて受け継がれているデザインのDNAを感じますね。

ジャコビアン刺繍の影響を感じるリバティのタナローンプリント
LIBERTY FABRICS Eva Belle Tana Lawn™ Cotton
英国王立刺繍学校(RSN)での最初の課題
私が英国王立刺繍学校に留学した際、最初の学期に取り組んだ課題もこのジャコビアン刺繍でした。
それまでの丸い刺繍枠とは全く異なる、ずっしりと重い角枠に丸一日かけて布を張り図案を写すという、気の遠くなる作業にカルチャーショックを受けたり、伝統的な素材とステッチを使いながら、自分らしい構図や配色を探ったり──その最初の挑戦は、まさに英国刺繍の入口。
作品を完成させたときの達成感は、いまでも鮮明に覚えています。


