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ご挨拶

英国伝統刺繍…皆様はこの言葉から、どんな刺繍を思い浮かべられたでしょうか。
真珠や宝石、金と銀で飾られた絹や薄物に、たんねんな刺繍の施されたきらびやかな衣装をまとった王様や王女様が登場するおとぎ話を読むことが大好きだった少女時代、大人になって英国に渡り、刺繍を学ぶ日が来るとは夢にも思いませんでした。

歴史上有名なヘンリー8世の居城として知られるハンプトンコート宮殿の中にある英国王立刺繍学校(Royal School of Needlework)。美しいイングリッシュ・ガーデンに囲まれたお城の中で、日本人では唯一の職人見習いとして、刺繍のプロになるために様々な英国の伝統刺繍の技法を学んだ3年間、まるでおとぎ話のお針子になったような時を過ごしました。

英国伝統刺繍には、英国王室の王位継承のセレモニーで着用されるローブに施されるゴールドワークや、17世紀に流行したミニチュアの立体刺繍・スタンプワークをはじめさまざまな技法があります。

その一つ一つに歴史に支えられた背景があり、そこに単なる技術や表面的なデザインの美しさ、流行とは異なる英国伝統刺繍の奥深さとおもしろさがあるのです。

また日本と同じ島国である英国は、伝統を大切にし自然を愛するという日本人と近しい国民性を持っています。ウイリアム・モリスとも深い関わりを持つ英国王立刺繍学校は、産業革命による機械化が進む大英帝国で、伝統工芸美術としての手刺繍の技術と精神を、保存継承するために設立されました。

あせらずに技術を磨き丁寧に一針一針を運んで作品を作る心は、流行や時代に左右されない英国人の精神、そしてひとつの道を究める職人の魂に触れることにも通じます。

英国の伝統刺繍を愛する方が増えることで日本の刺繍文化がさらに成熟し、日本と英国の刺繍を通じた文化交流の架け橋となることができれば、これ以上の喜びはありません。

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